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雷雪の如く 11.

 「スナック波奈」に着いたのは9時を少し過ぎた頃だった。扉の鐘の音を鳴らして店内に入ると、すぐさま、「いらしゃいませ」のハスキーな声が響いた。声の主である華と目が合う。微かな目配せと愛想笑いに親近感を覚える。華はカウンターの向こうから出て私をブース席に誘導した。カウンターに客が3人、いずれも男。ブース側には誰もおらず、私 ひとりが占領する形となった。

セットされていたカラオケ曲のイントロが始まった。懐メロだ。二人連れの男の一人がマイク片手に咳払いをしている。華がおつまみを持ってきた。そして、スツールに腰かけ、熱々のおしぼりを差し出す。

「いらしゃい。遅かったのね。じゃ、いつものでね。マッカランの12年でしたかしら。新たにキープしておくわね」
「いつものって何だい。まだ、なにも・・」
「しっ、黙ってて。 もう、来てるのよ」
華は人差し指を立てて唇にあてがうと後ろに目を遣れと横目で促す。さらに、
「あなた、何しに来てるのかしら。少しばかり気にするところが違うんじゃない。お勘定のことなんか気にしてる場合?」
華は小声でたしなめるように言い、再度、顎を微かに動かし、カウンターの男に気を向けさせようとした。
「例のしんちゃんか」 含み笑いを押さえながら小さく頷く華。しめしめといった表情だ。

カウンターの奥の席には背広姿の男がひとり。襟足の黒髪が長い。側頭部の髪は油で塗り固められライトに照らされ光っている。大音量のカラオケ演奏に乗せた聴くに堪えないガナリ声が響くなか、その男は両肘をカウンターに突き、静かに紫煙を燻らせている。カラオケに興じている男たちとは同じ空間でありながら全く別の世界にいるような異質な雰囲気を醸し出している。

華はウイスキーのボトルと氷の用意のために一旦、カウンターに戻った。カラオケを終えて満足げな男は何やら二言三言、華と言葉を交わすと二人目の男の歌を一緒になって探し始めている。華は例の男とはまるっきり言葉を交わさない。視線すらも合わせない。男もただ静かに酒の陳列されたガラス棚を眺めているだけ。込み入った話をするにはあの二人連れが邪魔なのだ。ここは奴と同様、じっくりと腰を据えて待つしかない。

冷静に事を見極めようとする一方、それとは全く別の気持ちも頭を擡げ、もうひとりの自分が耳元で囁きかける。

・・・・ ‶ しんちゃん″なる人物は病床の姉の母の足となり通院の手助けをしていた。この華の話に嘘がないなら、決して悪い奴ではないはず。今ここで、この男に自らの身上を明かし、知りうる全てを聞き出したい。そのことが早く姉に会うための一番の近道ではないのか。何を躊躇っているのだ? 漆田敦也よ ・・・・ 

漆田の心は揺れ動いていた。


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