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雷雪の如く 12.

地元の男ふたりには帰る様子が全くない。知らず知らずに膝を揺らしている自分に気づく。貧乏ゆすりをしていたのだ。
背広姿の男は吸いかけの煙草を灰皿に突っ込むとおもむろに立ち上がった。
「ママ、勘定」 奴も痺れを切らしたらしい。
「あら、もうお帰り?」
「また、今度にするよ。新たな情報もなさそうだし。景子から連絡があれば、とにかく、いの一番に電話を入れてくれ」
そう言うと男はドアに向かった。華は男を追うようにカウンターを出ると、掛けてあったコートを手に取って男が袖を通すのを手伝っている。だが、彼女の視線はこちらに投げられており、「あなた、どうするの?」とでも言いたげなそぶり。
こうなれば、もう決断するしかない。
「あのー、たった今、景子と仰いましたよね」 男の背中に思い切って言い放った。
男と華が振り向く。
「確か、景子と・・・」
「ええ。あ、あなたは?」
男はコートのポケットから革の手袋を取り出し嵌めている。
「もしかすると、あなたは漆田景子を知っておられるのではないかと・・」
「そう言う、あなたは、、どちらさまで?」 男はこちらから視線を逸らさず再度尋ねた。
「お、弟です。姉と連絡が取れなくなって心配になり・・・」
男の薄い目が大きく見開く。
「そうでしたか。これは奇遇です。私も景子さんを探しているのです。景子さんから弟君がおられることを聞いておりましたもので、あなたを訪ねて東京に出向こうと考えていたところなのです。まさか、こんなところでお会いできるとは・・」
多少、興奮しているようだが、どこか冷めているようにもみえる。感情を表に出さない性格のようだ。
「立ったままでは何ですから。さ、さ、二人ともお座りになって」 華は男の背中を押してソファーに導いた。

「ママ、お勘定!」カウンターのひとりが声をあげた。
「はーい、ただ今」 華が離れて、男二人がブースの前に残される。

「私、井上慎次と申します。景子さんとお付き合いさせていただいておりました」
「漆田敦也です。姉を探しにやってきました。お会いできて嬉しく存します。是非、姉についてお聞かせいただきたいのです」
「もちろんですとも。立ち話もなんですから」
井上は漆田に腰かけるように促すと、再びコートを脱いでソファーの横に追いやり隣に腰かける。袖口から高価な時計が覗いている。

初めて恋人の弟に会ったにもかかわらず平静を失わない男にどこか違和感を感じる漆田であった。