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日記・仕事・回想・コラム・レビュー・レポート・小説&詩篇集/金沢のもくれん院長の気儘ブログ
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父と祖父

休みの日を利用して実家に顔を出しました。母と妹が出迎えてくれたのですが、体の具合があまり芳しくない父もこの日はベッドから出て、私たちの輪に入ってくれました。

40年以上も前に亡くなった祖父の話になり、祖父の一周忌に出版された追悼集を見せてもらうことにしました。

祖父を偲んで多くの方々が一筆寄せてくれています。当時の裏千家家元 淡々斎宗室氏や犀星研究家であり、石川近代文学館館長であった今は亡き新保千代子さんの名もありました。息子と云う立場での父の一言もみつかりました。父は末っ子で祖父に相当可愛がられていたようです。



祖父の遺した作品。裏には雅号、松濤とあります。





こんな写真もみつかりました。
高田美和さんですね。若い方はご存知ないかも。。映画かドラマのロケに来られた時のものでしょうか。




雪の帽子を目深に被った民家が一軒また一軒と視界に入っては去っていく。日没を間近に控え、白雪に覆われた山々も薄暗く陰りはじめた。県境を過ぎた頃、雨は雪へと変わり、列車はそれと呼応するように速度を落とす。次のトンネルを抜けると小さな集落が見えてくる。私の生まれ育った場所。  

「長男が継がんかったら一体誰が継ぐんじゃ」
「俺の勝手やないか。だれが好んでこんな田舎にとどまらにゃならんのや」
横柄な態度で家業を継がせようとするに無性に腹が立った。私はこう吐き捨てた。そして裸一貫から小さな木工所を立ち上げ地道に頑張ってきたの人生を否定した。

言ってはならぬ言葉だった。は顔をくしゃくしゃにして声を荒げた。
「今すぐ出て行け!どこへでもいったらええ 」 母の制止を振り切り、私は鞄ひとつで飛び出した。

「兄ちゃん、僕が継ぐから大丈夫。母さんも心配しているよ。いつでも戻っていいんだからね」暫くして年の離れた弟が電話をよこしてきた。

優しい弟は私の代わりにの跡を継ぎ、精力的に仕事をこなしている。今では一児のだ。片腕として弟がどんな立派に成長しようともと私の溝はとうとう最後まで埋まることはなかった。あの日、仕事場で倒れ急逝した父、その亡骸を見るまでは。

あれから早や3年、明日は父の三回忌。
 
「祐二さん、駅に着いた頃かしら。こんな日にお迎え頼んじゃって気の毒なことしちゃったわ」

妻が呟いたとき、無数のみぞれの粒が大きな音をたてて車窓に張り付いた。粒は水滴となって幾筋もの曲線を描きながら後方へと流れていく。すぐに吹き飛ばされて消えてなくなるもの、一箇所に留まり力を蓄えているかようなもの、一歩前へと出る勇気が持てず行き先を思案しているような雫。生まれては消え消えては生まれ、早く死に逝くものもあればしぶとくこらえているものもある。人生のように。 人それぞれの生き方、何が立派で何が良くって悪いのか、それは本人がどう考えるかということ以外ない。人の道に外れないのならとやかく言う権利は誰にもないのだ。大事なのは誇りを持って生きていくこと、それに尽きる。  

「親父、本当にごめんよ。親父は誰より立派に生きてきたさ」
頑固な父だ。何と言おうが許そうはずもない。そう思うとふと可笑しくなった。

ほどなく列車はトンネルに入り、窓は鏡となった。車内がやたら明るく見える。めっきり白髪の増えた私の傍らでは家内がコンパクト片手に口紅を引きなおしている。
「あなた。じきに着きましてよ 」 妻はそう言うと厚手の紺のコートを差し出した。