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  • 屈辱 (2010.10.16)
      

屈辱

2050年、第二のユダヤの民と化した日本人は世界に散らばっていた。
ここはインドのバンガロール。発展が著しいこの街にも多くの日本人が生活している。
 
或る時、この地に住む一人の青年は自らのルーツを探ろうと旅に出た。目指すは極東、水資源の豊富な列島群だ。ここは過って日本国の領地であった。しかし今、「日本」という呼称すら大陸本土の巨大国その属州を意味する土地の名前でしかない。主幹産業は農業だ。島人たちは本土の多くの老いたる民の生きる糧を今日もせっせと刈り取っている。

この島で生を受けた青年の父は若くしてこの世を去った。・・・まだ幼かった父がこの地を離れる際にいずれ取りに来ようと秘密の場所に埋めたという真実を紐解くカプセル・・・それを探し出すのが目的だ。 

青年のルーツである日本人は、現在、世界中の人々から崇高な民と尊敬されてはいる。理由は言わずもがなだ。しかしながら、彼らの失ったものは計り知れない。それは父であり母であり故郷であった。では、屈辱の代償として得たものは何だったのだろうか? 

座して敗北を待った父の忸怩たる思いに引き寄せられたのか、その青年はついにそのカプセルを掘り当てた。カプセルは40年の時を経て開封された。なかには一冊の自由帳。青年はページを捲る。そこには、幼い字体ではあるが懐かしい日本の文字が綴られていた。  



天気のいい日です。僕は隣り町にある大きな公園に行きました。

この公園が造られた当時、北に住むおじさんやお向かいに住む青い目のお父さん、街の偉い人など、沢山の大人たちが土地をめぐって大喧嘩したと言われている公園です。

死んだ僕の曾爺ちゃんもその当時、色々と関わっていたらしくて、しかめっ面の大人たちが毎晩のように僕のお家に集まり、夜遅くまでお話していたらしいです。母さんがそう言っていました。  

恐る恐る出かけたその公園には滑り台やブランコ、ジャングルジムそして大きな砂場があって、お友達がみんな仲良く楽しそうに遊んでいます。ほっとした僕はこの日から時々ここで遊ぶようになりました。 

この公園のベンチにはいつも しょうへい爺が座っています。爺はいつもにこにこして僕たちの遊んでいる姿をじっと見てくれていました。だからよそ者の僕も安心して遊ぶ事ができるのでした。

子供たちが集まってくると、爺は公園で紙芝居を始めます。大喧嘩のお話ですが、悪者はいつも決まって僕の知ってるおじさん達です。この公園では爺はまるで校長先生みたいでした。  

ある日のことです。爺は一人の男の子を連れて公園にやって来ました。そして、「この子と仲良くして欲しい」と僕に頼みました。その子は爺を「じっちゃん」と呼んでいたので、多分、爺の孫なのだろうと思います。いつも同じ服を着て遊びに来る彼とはすぐに仲良しになりました。彼はきんちゃんと呼ばれていました。
 
それから暫くして、きんちゃんは大きなネズミ捕りの籠を持って公園にやってきました。中には猫がいます。彼のお家の軒下で巣づくりしていたという、目元の黒い斑点が可愛い猫です。

「友情の証として君に譲るよ」と彼は言いました。
彼の優しい気持ちに感激して、僕はその猫を貰いチュンチュンと名付けお家で飼うことにしました。

「明日もこの公園で遊ぼうね」ときんちゃんは言いました。
「お爺ちゃんのお墓にお参り行く約束を母さんとしているの」と僕が言うと、彼は残念そうにしていました。

断ったはいいもののバツの悪い様子の僕に「仕方ないじゃないか。また今度にすればよかろう」と付き添っていたしょうへい爺がきんちゃんを諭してくれました。  

公園で遊ぶには爺の許しが必要です。ぶらんこに乗るにも鬼ごっこするにもルールがあります。それは順番を守るとか、譲り合うとかといったルールではなく、爺の決めたルールです。そのルールが大嫌いなお友達も沢山いましたが、それに従わなければこの公園で遊ぶ事は出来ません。  

ある日、団地界隈に住む子供たち一派は「自由に遊びたい」と爺に反抗し、公園内で座り込むと大声を出して訴えました。すると爺は、「団地の奴らは流れもんやから悪いことも仰山見てきとる」と言って、爺の贔屓の子供らに竹棒や火の出る危ない筒のおもちゃを持たせ、団地一派を排除しようとしたのです。

平和な公園は子供たちの血で真っ赤に染まり大騒ぎになりました。気の弱い僕や青い目のりかちゃんは、公園の外でその成り行きをみているだけで何も出来ません。 それからというもの、公園には子供たちはぱったりと来なくなりました。

あの砂場の深い底には何が埋まっているの?爺は立派な人なの?それとも怖い人なの?
あの公園をどこの町のどの子供たちにも解放しようとしたのは爺自身だったのにどうしてですか? 疑いの気持ちは僕の心のなかで日に日に大きくなります。

そんな僕の思いを知ってか、今日も爺の孫のきんちゃんは公園に行こうと誘ってきます。団地の子供たちはもちろん、ご近所、誰一人として寄り付かなくなってしまったその公園にはベンチでしょんぼりする爺がいます。僕はそんな爺を慰めてあげることにしました。  

家族、皆が出稼ぎに行っているという爺はいつも同じ服を着ています。色々聞くと、かなり貧乏しているようでした。僕は可愛そうに思って、なけなしのお小遣いを上げたり貸したりしました。また、僕は団地やご近所を廻り、爺はそんな悪い人ではないと言って歩きました。   

ある夏の日、きんちゃんの誘いを断り、お墓参りに行くと伝えると、突然、爺は恐ろしい剣幕で怒り出しました。きんちゃんも人が変わったようでした。あまりの形相に僕たち家族はお参りを取り止めることにしました。

そして月日は流れ、僕のお小遣いはすっかりなくなり、今、父さんは失業中です。父さんは「りかちゃんのパパを少し怒らせてしまった」と肩を落としています。  膝小僧にアップリケを貼ったすり切れズボンを履いていたきんちゃんは、今では、有名なブランドのロゴなのでしょうか「小田」(ODA)と書いてあるおしゃれなブレザーを着こなし、ヴィトンのランドセルで通学しています。

僕は青い目のりかちゃんが大好きで、彼女のランドセル係をしています。ランドセル係とはお荷物を持ってあげる係です。ちなみに、色んな係があって3丁目のはんちゃんは宿題係です。母の話では、父さんの仕事もりかちゃんのパパが世話してくれてたそうです。  
 
ある日、お世話になったお礼にと、ドラえもんの人形をりかちゃんから貰いました。ところどころ少し汚れたぬいぐるみです。前々から欲しいと思っていたので本当に嬉しかったです。僕がりかちゃんから貰ったと自慢げにきんちゃんに話すと、彼はフ~ンと言ったきり関心がないようでした。

きんちゃんのお父さんとりかパパは仕事上のライバルだとは聞いていますが、それ以上のことは知りません。ただ、きんちゃんのお父さんの会社は儲かっているようです。  

最近になって、りかちゃんから貰ったどらえもん人形のポケットからお宝が見つかりました。甘い甘いキャンデーがいっぱい詰まっていたのです。すると、それを聞いたきんちゃんは、急にその人形は自分のものだと言い始めました。僕がその言葉にびっくりして、その事を父さんに話すと「きんちゃんとよく話し合いして決めなさい」と言いました。何も分かっていない父さんにびっくりすると同時に、みじめな気持ちでいっぱいになりました。なぜなら、そのどらえもんは間違いなく僕のものなのですから。  

そんな父さんに母さんは三行半を下し、新しくやってきた父さんとすでに新生活を始めています。でも僕はまだその新しい父さんを信じることができずにいます。きんちゃんのお父さんからの嫌がらせにビクビクしているみたいなのです。

どらえもんをきんちゃんに渡すことは絶対できないです。「どこでもドア」で時代をさかのぼり、歴史を変えることなど簡単なことだとたくらむきんちゃんには決して駄目です。きんちゃんのお父さんが出てくる前になんとかしたいと僕は子供ながら心を痛めています。今度から僕もお友達を見つけるときは気をつけたいです。


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