カフェマグノリアへようこそ!

日記・仕事・回想・コラム・レビュー・レポート・小説&詩篇集/金沢のもくれん院長の気儘ブログ 【HALE OLA HOKULANI E KOMO MAI】
2017年10月 ≪  123456789101112131415161718192021222324252627282930 ≫ 2017年12月
TOP ≫ 婚約者
TAG ≫ 婚約者
      

花束 

週末になると花束が届く。
花はスカーレットの薔薇で、数は12本。

女に臆面もなく薔薇の花束を送りつけてくるような男の顔を想像しようとすると、決まってあの人の日焼けした横顔が浮かぶ。 企画部からその手腕を買われ、鳴り物入りでこの課に配属された 社内中の女の子から熱い視線を注がれるあの男だ。確かに少し冷めた感じのなかにも野性味を備えた”いい男”なのだが、どこか自分がいい男だと意識しているようなところがある。唯一の、しかし決定的な欠点。 そういう男を私は徹底的に無視する。どうにも振り向かず 無視を決め込む女に切り札ならぬ薔薇の花束を送りつけてきたのだ。いわば挑戦状。  
 
ふと、眼を上げると、斜め向こうの席からしげしげとこちらをうかがっている同僚の視線とぶつかった。

「なによ、しょうちゃん。私の顔になにか付いてる?」
同僚はじっとこちらを見ているだけで答えない。

「なにが付いているって言うのよ!」 

「焦り。期待感」 

 「他にも何か付いているっていうの! 」 
同僚の言葉にはっとしつつもこころの内を見透かされまいと苛立つ私。

「優越感」
同僚はまた一言そう言うとすぐさま視線を落とす。


「ねえ、しょうちゃん。お願いがあるの」
私は甘えたように言う。

「実は、薔薇の花束が送られてくるのよ。。。 毎週。それも決まってお休みの前日」

「ふうん。いまどき珍しい奴がいるものだな」

「名前がないの。送り主の名前がないの」

「・・・」

「けど、誰だか少しは見当がついてはいるの。だからさぁ、ちょっとだけ相談に乗ってくれない?」 YESともNOともどちらともとれないような同僚の顔。

「ところでしょうちゃん。彼のこと、どう思う」 と切り出す私。
反応はない。

「彼よ。企画から来た彼」
私はまんじりとして答えを待った。

少し間を置いて真面目な顔で遠くに目をやる同僚。
「悪くない。悪くないと思うよ。。男の俺から見ても。 仕事はできるし性格もそう・・・・悪かない」
彼はそう言うとまたもや視線を落とし、それきり口をつぐんでしまった。自信がないのだ。感性はなかなかいいものを持っているにはいるのだが・・・。あの人の容姿とこの彼の感性が1つになったら最高なのだけれど。

「そうよねぇ。そう思うわよね」
気弱な同僚に私はお構いなしに同意を求める。男に好かれない男にはどこか欠点がある。勇気を貰ったかのように私はさらに大胆になった。

「お願い!ねっ、、わかるでしょ!」

「おいおい、恋のキューピットなんてごめんだよ。そんな柄じゃない」
同僚のにべもない返事。

「お願いよ、しょうちゃん!いつから机並べてると思ってるの!!」
それならばと今度は口を尖らせてみる。

「これっきりだぞ! 」
同僚はついに根負けしたのか半場呆れ顔でそう言った。
 

あれから3ヵ月。私は「あの人」と婚約している。
同僚がどう彼に話してくれたかは知らない。彼本人から聞いてみたいとは思うものの切り出せないでいる。あれ以来、届かなくなった花束のことも・・。

結婚を目前に控えたある日、私は婚約者に冗談めかしてすねてみせた。
「ねぇ、あなた。いくらなんでも釣った魚に餌をやらなくなるにはちょっと早いんじゃない?」

「えっ、どう意味だい? 」
不意を突かれた様子で聞き返す彼。

「花束。薔薇の花束よ」

「 ・・・・  何のこと?」

「!」

「あ、あなたではなかったの・・」
ふっと小さな眩暈にも似た感覚が私を襲う。そしてそれは渦となり胸の中を回りはじめた。

薔薇の花束は毎週必ず送られてきていたのだ。私が結婚を決意するあの日まで。


ご訪問ありがとうございました。 にほんブログ村クリック(∩´∀`@)⊃お願いします!