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日記・仕事・回想・コラム・レビュー・レポート・小説&詩篇集/金沢のもくれん院長の気儘ブログ
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雷雪の如く 9.

 華からは、姉の生活ぶりについては多々聞くことが出来た。そのなかにはいくつか自分の知らない情報もあった。今後、捜索を続けていくうえでの足掛かりとなる情報だ。ひとつに、姉が湯涌に来たのはこの地でひとり暮らす実母の世話をするためだったこと。そして、その母は姉の献身的な介護の甲斐なく一年前に亡くなっている。ふたつに、管理人の村井が言っていた通り、姉には大阪から一緒に来た男がいること。そして、その男は姉の恋人に違いなく、現在、金沢でひとり暮らしている。また、姉の母が亡くなるまで、男は湯涌でホテルマンとして働きながら、姉の足となって母の通院の手助けしていた。

姉の母には会ったことはないが、美しい人だった聞く。いや、確かに美しい人だった。子供の頃のことだ。姉と私は父の書棚から古いアルバムを引っ張り出して広げていた。私はそのなかに気になる一枚見つける。そこには若い父の腕のなかではにかむように微笑む美しい人が写っていた。どこか大好きな姉にも似ている。私は姉に「この人は誰なのか」と写真の人を指さし聞いた。その時、姉は静かに言った。「私のお母さん」と、それはもう消え入りそうな声で。幼いながら、私はその哀しい響きに何もわからず泣き出してしまった。当時より、父を捨て別の男に走ったとの噂はあったが、私自身、信じてはいなかった。姉の母に関しては父も多くは語らず、私も母に聞くことはしなかった。しかし、まさか、こんな辺境の地でひっそりと余生を送っていたとはー

姉を取り巻くおおよその外郭はみえてきた。しかしながら、華からは、姉の身に何が起こったのかという事の真相、核心に触れるものは出てこなかった。それでも大きな収穫があった。姉の恋人らしきその男が今夜、この店を訪ねてくるという。昨日、店に電話があったというのだ。姉と飲みに来ていたことも何度かあるらしいが、華自身、姉の恋人だと言うだけで、男のことはよくは知らない。姉を囲んでおしゃべりしたり、カラオケでデュエットしたこともあるが、それはあくまで仕事の内で、姉とは気易かったが、男とは客以上の付き合いはないとのことだ。口数が少なく取っ付きにくい男だそうだ。いずれにしろ、この機会を逃す手はない。男に直接問うてみるのが一番の近道だ。姉が男のもとに身を寄せているのならばそれはそれでいい。万が一、その男が姉を同伴してやってくるなら、それもそれで静かに受け止めたい。ただ、華が姉と懇意であれば姉が華に居所を教えないはずはなく、華が姉の消息を知らない以上、その可能性は無きに等しいとは思うが。。

店の客に混じり 男を待つ、というのはどうだろうか。店で待ってると事前に知らせることも考えたが、姉の肉親だと知って変に構えられては男の素の部分までは知り得ない。この際、どんな男なのかを遠目でじっくり観察しておいてもいいだろう。姉の恋人と弟が偶然この店で居合わせるという算段 ー ありえなくはないだろう ー 華には、いずれ素性は知れるにしてもそれまでは何も知らないふりをしてほしいと頼んだ。華は一瞬、怪訝は表情をみせたが、すぐに了承した。


 宿に戻ると女将が待っていた。
「お待ち申しておりました。漆田様。まずは、お風呂でゆっくりとお疲れをお取りくださいまし」
派手な着物に目を奪われる。帯もかなり高価な品ようだ。これでは客が主役なのか女将が主役なのか分からない。指にも大きな石が輝いているが、それが返って筋張った手の甲と浮き出た血管を目立たせている。気の強そうな顔立ちに華奢な体つき。歳の頃は60半ばといったところか。大きく開いたうなじは加齢とともに失われゆく色香を惜しまず出そうとしているかのようで、それこそ、ここにこの女の色気の本質があるのではないかと思った。

「雪さんの弟さんでいらしゃるのね。さぞかしご心配のことでしょう」
「お話をお聞かせいただける時間はありますでしょうか?」
「それならどうかしら。ご夕食の時にお部屋にお伺いさせていただくというのは」
「ありがとうございます。女将さんさえ宜しければそれで。姉が突然いなくなり、ただでさえ、ご厄介おかけしておりますのに」
女将であれば静香という仲居についても何か知っているかもしれない。あるいはそれ以上のことも。

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