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日記・仕事・回想・コラム・レビュー・レポート・小説&詩篇集/金沢のもくれん院長の気儘ブログ
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雷雪の如く 5.

 姉の部屋を出ると空は一段と高くなっていた。コンクリートの路面が明るく照らされている。漆田は徒歩で帰途すると村井に伝えた。街なかを歩いてみようと思ったのだ。街なかとは言っても、バスのロータリーを中心にその周辺に地元の商店や土産物を取り扱う店が数店あるだけである。倉西の話によると、姉は歩いて宿に通っていたらしい。車を所有していた形跡もない。ならば、生活していくうえでの姉の行動範囲もそれなりに狭いはず。であれば、そこで知り得る姉に関する情報はより濃密になろう。街中を歩いてみることも決して無駄にはなるまい。村井は少し意外な顔をしたが、それ以上何も言わず、自分の携帯番号のメモ書きを手渡し去っていった。

 アパートの各室を訪ねようと決めていた。村井を帰らせたのはひとりで訪ねようと思ったからだ。村井が同行することは当然躊躇せざるを得なかった。不意の訪問だ。万一、訝しがる住人がいれば大家である村井が矢面に立たざるを得ない。それは避けたい。後々のことも考え、村井には何も話さなかった。

隣の1号室から順々に全ての部屋を訪ね歩いた。上階の2室以外はチャイムを押しても全て応答なし。応対に出た2室の住人はいずれも別の旅館の仲居係だ。お昼休みを邪魔されて多少不機嫌ではあったが、真摯な態度に応対を拒否することはなかった。しかし、残念ながら彼女達からは特段、気になる情報は得られなかった。部屋を借りているほとんの者が数軒ある旅館のいずれかに従事している。だとすれば、彼らの勤務時間はまちまちで、日勤もあれば夜勤もある。今週末は旅館も忙しいはずであり、自室でのんびりしている者は少ないのかもしれない。私は、情報があれば提供してほしい旨の内容を記したメモを不在だった全ての部屋のドアに挟んでおいた。

 腕時計の針は午後の1時を少し回っていた。私はアパートを離れ、街の中心へと歩き出した。自らの湿った足音だけが耳に入ってくる。姉は毎日、どんな思いを抱いてこの道を歩き、仕事場に通っていたのだろうか。宿まで近いとは言っても女の足では10分は優にかかる。雪の日にはその倍の時間を有するだろう。そもそも、どうして姉はこの地で暮らし始めたか。確かに水は美味しく湯も素晴らしい。静かに暮らしてゆく分にはこれ以上ないかもしれない。しかし、果たしてそれだけだろうか。姉には親しい男がいたと村井は語った。男の存在が事実ならば、この地に姉を連れてきたのはその男ではないのか・・・

漆田の想像は徐々に確信へと固まりつつあった。



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