カフェマグノリアへようこそ!

日記・仕事・回想・コラム・レビュー・レポート・小説&詩篇集/金沢のもくれん院長の気儘ブログ 【HALE OLA HOKULANI E KOMO MAI】
2017年10月 ≪  123456789101112131415161718192021222324252627282930 ≫ 2017年12月
TOP ≫ カウンター
TAG ≫ カウンター
      

雷雪の如く 7. 

 女に促されるままカウンターの席に腰かけた。5,6人、座れれば満席になるカウンターだ。上には小さなスリガラスの灰皿とメントールの煙草がひと箱、置かれている。灰皿にはまだまだ吸えそうなくらい長い吸い殻がひとつ。カウンター奥のキッチンに女が消えると暗かった部屋が少しだけ明るくなった。照明のスイッチを入れたようだ。部屋中の灯りを全部点灯させてもそれなりの明るさしか得られないのはこの店の業態が夜仕様だからだろう。

カウンターの奥の壁は全面、ガラス棚になっており、ウイスキーがずらり陳列してある。後ろのブースには、ワイン色のベロア調ソファー、スツール、ガラステーブルがワンセットだけ。5人も座れればいいほどの大きさだ。所々、痛んでいるようだが、暗がりであれば目に留まることもないだろう。キッチンからは、女が食事の仕度をしてくれているようで、揚げ物のぱちぱちとした音が聞こえている。ランチの案内が記された折り畳み式のサインボードがキッチン入口の収納棚に立てかけられていた。鰺フライが本日の日替わりランチだった。程なく女がトレー持ってキッチンから出てくる。

「ナイト営業だけじゃ、このご時世でしょ。なかなか厳しくてね。ランチも始めちゃったんだけど、なかなか要領がつかめなくてね。今日も余らしちゃったの」そう言いながら女は目の前にトレーを置いた。鰺のフライ、大盛りのご飯と味噌汁、さらに小鉢がひとつ。申し訳程度の漬物もある。みそ汁の湯気に忘れかけていた食欲が蘇る。

「いただきます」
漆田は食事に手を付ける。
女はカウンターの奥から箸を進めるこちらの顔をしげしげと眺めている。
「お味の方はどうかしら」
「うん。すごく美味しいです」 嘘はない。
「なら、良かった」
女はにこりと笑う。気の強そうな先ほどまでのイメージを覆すような愛らしい笑顔だ。ざっくりとしたブルーのセーターに首から下げるエプロンを着け、ウエストできつく結んでいる。襟首から鎖骨がのぞいて多少不格好だが、それも悪くない。

「あなた、どこから」女が聞く。
「東京です」
「一人旅?」
「ええ。一人旅といえばそうなんですが、実は、観光と言うより別の用件がありまして。数日、湯涌に滞在する予定なんです・・」
「ふうん。そうなんだ」女はそれ以上聞こうとしない。

「昼の遅い時間なのに店を開けさせるようなことになりまして本当に申し訳ありません。お姉さんはお食事はお済みでしょうか」
「実を言うと、私もまだ。丁度、店を閉めて、余りもので済ませようとしてたところだったの」女は照れを隠すように舌をのぞかせる。
「お姉さんさえ宜しかったらご一緒しませんか。夜の営業もお有りなら、、早めに切り上げて少しお休みになられたほうが・・」
「そうね。私のお腹もさっきからグーグー、鳴ってもいるし。。そうさせてもらおうかしら。ひとりで食べても味気ないものね」
「ひとり飯は慣れっこですけど、やはり一人よりは二人がいい」
「ということは、あなた、独身?」
「そういうことになりますね」

「あ、そうだ。ちょっとゆっくり食べててね。レンコンのきんぴらがあるから持ってきてあげる」
女はキッチンに小走りで戻ると、タッパーを手にして戻ってきた
「これも何かの縁よね。あたし、華。よろしく!多少、薹が立ってるけど、まだ爺さんたちには人気あんのよね」
華と名乗る女はそう言うとクスリと笑ってまた舌を見せた。