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日記・仕事・回想・コラム・レビュー・レポート・小説&詩篇集/金沢のもくれん院長の気儘ブログ
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雷雪の如く 8.

華はこちらに背を向け、食後のコーヒーを淹れている。少し喋り疲れたのか 今は大人しい。食事中は、他愛のない話で俄然 盛り上がった。酒や食の嗜好から仕事にまつわる事まで話は尽きない。一方的に話題を持ちかけては矢継ぎばやに言葉を繰り出してくる華に対し、こちらは唯々、相槌を打つだけだ。

普段、客の話を聞くばかりで、ある意味、それが彼女の仕事であるから、一旦、これは仕事でないと心のなかで割り切ってしまうと、聞く側から話す側へと知らず知らずにシフトしてしまうのだ。それでも、流石にひとつの店をあずかるママだ。話も面白く、結構楽しめた。料理のほうも、ことのほか美味しくいただけた。あけすけな性格のようだが、意外と家庭的な女なのかもしれない。

「ねえ。あなた。さっき、湯涌には用事で来たと言ってたけど。お仕事は金沢で?」
華はコーヒーをやんわりと差し出した。そしてシュガーポットの蓋を開け、立てかける。水商売の女にありがちなさりげなさ。
「実は、姉を探しにきたのです。突然連絡が取れなくなってしまって。華さんにも、お聞きしようと思っていたところなんです」
華は目を大きく見開き、口元に手をやる。かなり驚いた様子に一瞬こちらも面食らう。

「あ、あなた。もしかすると、雪ちゃんの弟さん?」
「はい。漆田敦也と申します。姉は景子と申します。腹違いの姉ですが、私の最も大事な人なのです」
「ああ、やっぱり。雪ちゃんは弟さんにも連絡していないんだ。。あたしもずっと心配してたんだけど。こっちが嫌になって多分、実家にでも戻ったんだろうと。。そう思うようにしてたのに・・・」 華が顔を歪めて言う。

「ご存知なんですね。姉のことを」
「ご存じもなにも大の仲良し。よくここで色んな話をしたわ。そう、今あなたが座ってるその席が彼女の指定席。客の引けた後はあたしも隣の席に座ってね、朝まで飲み明かしたことだってあるの。でも、大の仲良しと思っていたのはあたしだけなのかって。。」

「華さん!色々聞かせてください。姉があなたと何を話してたのか。いなくなる前はどんな様子だったのかを」
漆田は感極まった様子の華に詰め寄った。

hirokonohiko

4ケ月を過ぎて随分と子供らしいお顔になってきました。

   

お正月、家族で実家に行きました。ひ孫を抱いて嬉しそうにしている母をみているとこっちまで嬉しくなります。



癒しの技術におけるもうひとつの側面

ロミロミにはメディカルな作用があることはいうまでもない。また、スピリチュアルな角度からアプローチしてゆく技術でもあること、それも周知のことだ。

これについては、セラピストの誰もが様々な媒体で語るところであり、今さらという感が否めない。ということで、ここではあえて別の一面を紹介したい。

それは、ロミロミはある意味ポップ・カルチャーであるということ。一口に言ってしまえば、能書き垂れるばかりの 頭でっかちではいい施術はできない-、 そんな技術を施すくらいならポップに楽しく施術をしたらどうなのか、そう提案しているのだ。片肘を張るのは技術面においてだけでいい。

ロミロミに限らず、様々な癒しのボディーワークには自らの個性を主張したり、相手に対する感情を表現したりする余白がある。施術そのものをアーティスティックなものへと高めることさえできる。この楽しさこそがポップカルチャーなのだ。

こう言うと、癒しを蔑ろにしているように聞こえるがそうではない。絵を上手く描ける奴は筆の使い方がいい。それと同じだ。目的が「癒し」というベクトルにある限り、表現力のあるほうが優れている。



雷雪の如く 7. 

女に促されるままカウンターの席に腰かけた。5,6人、座れれば満席になるカウンターだ。上には小さなスリガラスの灰皿とメントールの煙草がひと箱、置かれている。灰皿にはまだまだ吸えそうなくらい長い吸い殻がひとつ。カウンター奥のキッチンに女が消えると暗かった部屋が少しだけ明るくなった。照明のスイッチを入れたようだ。部屋中の灯りを全部点灯させてもそれなりの明るさしか得られないのはこの店の業態が夜仕様だからだろう。

カウンターの奥の壁は全面、ガラス棚になっており、ウイスキーがずらり陳列してある。後ろのブースには、ワイン色のベロア調ソファー、スツール、ガラステーブルがワンセットだけ。5人も座れればいいほどの大きさだ。所々、痛んでいるようだが、暗がりであれば目に留まることもないだろう。キッチンからは、女が食事の仕度をしてくれているようで揚げ物のぱちぱちとした音が聞こえている。ランチの案内が記された折り畳み式のサインボードがキッチン入口の収納棚に立てかけられていた。鰺フライが本日の日替わりランチということだった。
程なく、女がトレー持ってキッチンから出てきた。

「ナイト営業だけじゃ、このご時世でしょ。なかなか厳しくてね。ランチも始めちゃったんだけど、なかなか要領がつかめなくてね。今日も余らしちゃったの」そう言いながら女は目の前にトレーを置く。鰺のフライ、大盛りのご飯と味噌汁、さらに小鉢がひとつ。申し訳程度の漬物もある。みそ汁の湯気に忘れかけていた食欲が蘇ってきた。

「いただきます」
漆田は食事に手を付ける。
女はカウンターの奥から箸を進めるこちらの顔をしげしげと眺めている。
「お味の方はどうかしら」
「うん。すごく美味しいです」 嘘はない。
「なら、良かった」
女はにこりと笑う。気の強そうな先ほどまでのイメージを覆すような愛らしい笑顔だ。ざっくりとしたブルーのセーターに首から下げるエプロンを着け、ウエストできつく結んでいる。襟首から鎖骨がのぞいて多少不格好だが、それも悪くない。

「あなた、どこから」女が聞く。
「東京です」
「ひとり?一人旅?」
「ええ。一人旅といえばそうなんですが、実は、観光と言うより別の用件がありまして。数日、湯涌に滞在する予定なんです・・」
「ふうん。そうなんだ」女はそれ以上聞こうとしない。

「昼の遅い時間なのに店を開けさせるようなことになりまして本当に申し訳ありません。お姉さんはお食事はお済みでしょうか」
「実を言うと、私もまだ。丁度、店を閉めて、余りもので済ませようとしてたところだったの」女は照れを隠すように舌をのぞかせる。
「お姉さんさえ宜しかったらご一緒しませんか。夜の営業もお有りなら、、早めに切り上げて少しお休みになられたほうが・・」
「そうね。私のお腹もさっきからグーグー、鳴ってもいるし。。そうさせてもらおうかしら。ひとりで食べても味気ないものね」
「ひとり飯は慣れっこですけど、やはり一人よりは二人がいい」
「ということは、あなた、独身?」
「そういうことになりますね」

「あ、そうだ。ちょっとゆっくり食べててね。レンコンのきんぴらがあるから持ってきてあげる」
女はキッチンに小走りで戻ると、タッパーを手にして戻ってきた
「これも何かの縁よね。あたし、華。よろしく!多少、薹が立ってるけど、まだ爺さんたちには人気あんのよね」
華と名乗る女はそう言うとクスリと笑ってまた舌を見せた。


雷雪の如く 6.

「湯涌温泉入口」というバス停留所の前に来た。横手には街の案内図が設置されている。道路を挟んで向かいにバスのロータリー。この停留所を起点に道が左右に分かれている。宿に戻るには左に行けばいいのだが、早々に帰館してもしようがない。漆田は右の通りに出ることにした。こちらの通りは奥に長く伸びており、道の両側には商店・飲食店の類と民家が交互に軒を連ねている。突き当りは「総湯」と称する公衆浴場だ。地元では温泉地の中心となる共同の浴場をこう呼ぶのだそうだ。

湯涌は金沢唯一の温泉地であり、観光と温泉を楽しみに全国各地から多くの人が訪れている。だが、今時の観光地においてしばしば見受けられる、とびっきり洒落た感じの店などはない。民家もあくまで民家のままでごく自然にこの湯の町に溶け込んでおり、そこには何の衒いもない。言い換えれば、お洒落であればあればあるほどそこには客の懐を目当てにする下世話な欲が透けて見えるし、逆に生活の匂いがする場所にはどこかしら人の情けに出会えるような、そんな気にさせる何かがある。湯涌はまさに人の匂いが漂う街だった。

漆田は本通りを外れて路地に入った。すぐ先に軽トラが往き手を遮るように停まっている。運転席には誰もいない。車はアイドリングの状態である。横に目線を移すと、道の右際は数段下がっており、そこはホールのような空間になっていた。奥には黒っぽいドアがあり、右手には上の階に行ける階段がみえた。旅館の寮か賃貸マンションなのか。

漆田が軽トラの横をすり抜けようと一歩足を踏み出すと、ガランという大きな音ととともにドアが開き、尻をコチラに向けた大男が重そうなラックを抱えて出てきた。尻をこちらに向けていたのは、両手が塞がっているので尻を使ってドアを押し開いたからであり、また、大きな音がしたのはドアの開閉によって来客を知らせる拳大の鐘がドアの上部に付いているからだ。

「タケちゃん、ありがとね。今日のところはこれで十分だと思うんだ」
ドアの奥から女の声が聞こえた。
「それならいいんやけど。まあ、足りなくなったらいつでも連絡くれていいから」
「うん。わかった」

男は漆田の前を横切りるとトラックの荷台にラックを積み込んでいる。黒のニット帽にグレーのレインジャケットを着たいかつい男だ。女はドアから顔だけ覗かせている。化粧っ気はなく、赤茶けた髪を後ろで束ねている。尖った顎と切れ長の目が印象的。

「それはそうと、タケちゃん。今晩、寄ってくれるんでしょ」
「ああ。気が向いたらな」男はそう言うと薄く笑って運転席に乗り込みギアを切り替える。
「気が向いたらって何よ-。必ず来てちょうだいねー」
男は片手を軽く上げただけで何も答えず去っていった。

車がいなくなると店の看板が目に入った。「スナック 波奈」 打ち放しの横壁に横書きの店名がフィックスされており、夜間にはライットアップされる仕組みとなっている。さしづめ、先程の軽トラの男は酒屋か乾物屋の御用聞きで、女はスナックのママというところか。ドアの方に振り返ると、女と目が合った。薄い唇にほのかに紅が差されている。首だけがドアから覗いているのは先程と変わらない。

「ちょっと、あんた。何見てるのよ!」 視線をそらさず女がくってかかる。
「え。私のことでしょうか」
「何とぼけたこと言ってんのよ。あんたしかいないじゃない」 確かにそうだ。
「温泉街を散策してましたら、お昼時を過ぎてしまいまして。どこかで腹ごしらえしようとお店を探してこの路地に。。」
「あ。そうなんだ。ちょ、ちょっと待ってて」
女は敵対モードを引っ込め、少し考えるようなそぶりをしたかと思うとドアの向こうに首を引っ込めた。

しばらくすると、また顔をドアからのぞかせ言う。
「鰺フライが残っているんだけど、どう?」
「よろしいのですか。お店はまだのようですが・・」
「さっき閉めたばかりなの、ランチタイム。ささ、どうぞ。遠慮しないで。お客様なんだから」
ドアの鐘の音とともに漆田は中に入る。耳元で響く鐘の音は漆田の心の臓を揺さぶった。それはまるで終わりのないゲームの始まりを告げるゴングのようだ。

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